大切にしたいもの
「あなたが大切にしたいものは何ですか?」
そう聞かれたら、
いくつか思い浮かぶものがあるかもしれません。
家族。
仕事。
友人。
自分の時間。
自由。
安心。
人とのつながり。
でも、
大切なものがわかっていることと、
それを実際に大切にしながら生きられることは、
同じではないのかもしれません。
「大切にしたい」と「実際にしていること」
たとえば、
家族との時間を大切にしたい。
そう思っているのに、
仕事を断れず、いつも帰りが遅くなる。
人とのつながりを大切にしたい。
そう思っているのに、
本当はしんどい関係から離れられない。
自分自身も大切にしたい。
そう思っているのに、
誰かを優先することをやめると、
わがままな人になってしまうような気がする。
こういうことは、
日常の中で案外たくさん起きています。
だからといって、
「本当は家族が大切ではない」
「自分を大切にする気がない」
ということではないのでしょう。
大切にしたいものは、ちゃんとある。
でも、その思いだけでは決められない何かも、
自分の中にはある。
心理学にある「自分の価値と一致しているか」という視点
心理学には、
**self-concordance(自己一致)**という考え方があります。
大まかにいうと、
自分が目指していることが、自分自身の興味や価値観とどのくらい一致しているか
を見るものです。
心理学者のKennon SheldonとAndrew Elliotらによって研究されてきました。
自分自身の興味や価値観に沿った目標を追うことが、
その人の心の満たされ方とどう関係するのかも研究されています。
ここで面白いのは、
「何を達成したのか」
だけを見ているわけではないところです。
同じものを手に入れても、
同じことを成し遂げても、
それがその人自身の大切にしたい方向と合っているかどうかは、
人によって違います。
「目標」と「価値」は、少し違う
もう一つ、このことを考えるときに興味深いのが、
ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)で扱われる**values(価値)**です。
たとえば、
「子どもと旅行に行く」
これは、一つの目標にできます。
旅行に行けば、達成できます。
一方、
「子どもとのつながりを大切にして生きる」
というのは少し違います。
一度何かをしたら達成して終わるものではなく、
「私は、こちらの方向を大切にして生きたい」
という、生きる方向に近いものです。
だとすると、
自分が満たされているかを考えるとき、
「何を手に入れた?」
「何を達成した?」
だけではなく、
「私は、自分が大切にしたい方向に、今、生きられているだろうか?」
という見方もできるのだと思います。
それでも、大切なものだけでは選べない
ただ、ここで難しいことがあります。
私たちの中には、
大切なものが一つだけあるわけではありません。
家族も大切。
仕事も大切。
自分も大切。
相手も大切。
安心したい。
でも、挑戦もしてみたい。
つながっていたい。
でも、離れたい。
だから、
「あなたが一番大切なものを決めましょう」
だけでは、うまくいかないことがあります。
どれかを選ぼうとすると、
選ばなかったものを、
置いていくような感じがすることもあります。
そら音処で見ているもの
そら音処では、
「本当は何がしたいですか?」
だけを探すのではありません。
今、その人の中にあるものを、
できるだけ一緒に見ていきます。
大切にしたい気持ち。
怖さ。
腹立たしさ。
迷い。
こうするべき、という考え。
誰かを思う気持ち。
そして、ときには自分でもまだ気づいていない、
小さな感覚。
どれかを正解にして、
ほかを消すためではありません。
いろいろなものがあることが見えてくると、
「これか、あれか」だけではなかった選択肢が、
少しずつ見えてくることがあるからです。
そして、
「私は、これを大切にしたかったんだ」
が見えてきたとき、
今の自分に合う一歩を選びやすくなることがあります。
大切なものを、大切にしながら生きる
大切なものを大切にできていれば、
必ず人は満たされる。
心理学が、そう証明しているわけではありません。
でも、
自分が大切にしていることと、
実際に目指していることや行動との一致
については、心理学でも研究されてきました。
だから私は、ときどき自分に聞いてみます。
「私が大切にしたいものは何だろう?」
そして、もう一つ。
「私は今、それを大切にするように生きられているかな?」
答えがすぐに出なくても、
その問いから見えてくるものが、
あるのかもしれません。